第88回日本循環器学会学術集会

The 88th Annual Scientific Meeting of Japanese Circulation Society

Late Breaking Cohort Studies 2

  • LBCS2-4

2024年3月9日(土)

Real-world Implementation of Rivaroxaban Therapy in Cancer Patients with Venous Thromboembolism: a Prospective Multicenter Study in Japan [PRIME-CAST Study]

(実臨床におけるがんに合併した静脈血栓塞栓症に対するリバーロキサバン療法:日本における前向き多施設研究[PRIME-CAST研究])

演者:
田村 雄一 先生
(国際医療福祉大学 循環器内科)

背景・目的

  • 腫瘍からの凝固促進物質の放出、血管浸潤、長期安静、感染症、手術、薬剤などの多因子が関与し、がん患者に静脈血栓塞栓症(VTE)が発症する1)。そして、がん患者におけるVTEの発症率は約11%であり、健常者の約6倍の発症率となっている2)。VTEの急性期には低分子ヘパリン(LMWH)の使用が推奨されるが、日本では未承認のためワルファリンが使用されてきた。
  • リバーロキサバンの有効性はワルファリンと非劣性であることが海外から報告され3)、日本では安全性が確認されている4)。しかし、がん患者に対する有効性と安全性は確認されていない。
  • そこで、われわれは国内27施設が参加する前向き観察研究を実施し、日本人がん患者に合併したVTEに対するリバーロキサバンの有効性、予後への影響、出血イベントの発生率などについて検討した。

対象・方法

  • VTEを発症した活動性がん患者で、2018年8月から2021年12月の間にリバーロキサバンを投与した327例を対象とした。対象は18歳以上の活動性の固形がん患者(リンパ腫/肉腫を除く)で、何らかのがん治療の実施が認められた。
  • リバーロキサバン投与から24週間を主要評価項目の観察期間とし、さらに2年間の追加観察期間を設けた。
  • 登録基準に外れた5例を除外し、322例を有効性と安全性の解析対象とした。

1)Levine M. Haemostasis. 1997; 27 Suppl 1: 38-43
2)Heit JA, et al. Arch Intern Med. 2000; 160: 809-815
3)De Caterina R, et al. Thromb Haemost. 2019; 119: 14-38
4)Yamada N, et al. Thromb J. 2015; 13: 2

評価項目

  • 主要評価項目:VTEの再発/悪化
  • 副次評価項目:出血イベント、有害事象、PE-DVT clot regression (肺塞栓症(PE)/深部静脈血栓症を消失、改善、不変、増悪で評価)、死亡

結果

  • PE、遠隔転移、外来の患者は、それぞれ全体の約半数だった(図1)
  • がんのタイプは、卵巣がん14.3%、肺がん13.7%、子宮がん13.4%、大腸がん11.2%、膵臓がん8.7%、胃がん5.6%、その他のがん34.5%だった。
  • 24週間の観察期間において、VTEの再発/悪化は2%に認められた。24週後のPE-DVT clot regressionは、77%が消失、8%が改善、15%が不変で、増悪は0%だった。大出血は9例(2.8%)に発生した。また、VTEに関連した心血管死は1例も認められなかった(図2)
  • 24週後の生存率は87.5%で、がんによる死亡が多かった。
  • 今回の結果は、これまでに報告されたがん関連VTEを対象にした海外5,6)および国内4)におけるリバーロキサバンの臨床試験と比べて、有効性、安全性ともに同等の結果であった。

図1 患者背景因子と出血合併症の関係

図2 結果のまとめ

4)Yamada N, et al. Thromb J. 2015; 13: 2
5)Prins MH, et al. Lancet Haematol. 2014; 1: e37-46
6)Young A, et al. J Clin Oncol. 2018; 36: 2017-2023

Q&A

Q1

(フロアーより)たとえば、膵臓がん患者から発症したVTEは予後が悪いともいわれるが、がん種によってリバーロキサバンの有用性に違いがあると考えるか。
A1

その点はわれわれも興味を持っていて、今後の検討課題と捉えている。追加追跡期間や胃がんに焦点を当てた解析なども含めて今後検討していきたいと考えている。
Q2

(座長:室原豊明先生[名古屋大学 循環器内科])何らかの理由でリバーロキサバンの継続を断念せざる得ない場合もあると思うが、今回の検討でもリバーロキサバンの中止例はあったのか。
A2

有害事象などの理由で2%の患者がリバーロキサバンの投与を中止していた。